茶室

メニュー| 22 | えらぶ23 | ほぶ24 | ぶ25 | ぐぶ26 | ふぶ27 | げらぶ28 | うらぶ29 | ろりぶ30 | 31 | からぶ32 | きらぶ33 | くらぶ34 | 35 | ぶり | のらぶ | えぶ | 二日 | 40 |

からぶ32

からぶ32

「……皆が皆、善人であるとは限りませんから、騙された事はあります」

罵倒する緋影に対し、ゆっくりと、しかし、静かな迫力を感じさせる声で葵は正直に答えた。

「じゃあ聞くぞ?騙されて人生終わっちまったらどうすんだ?騙されるより騙す方がいいに決まっているじゃないかっ!」

「……私はそうは思いません。騙される事もあるでしょうけど、それでも騙す側の人間になりたいだなんて、私は思いません」

「……人を信用したが故に、取り返しのつかない事態を招いたとしてもか」

口調が変わっていた。今までは勢いにまかせて言っていた部分もあっただろうが、この時の緋影の声からはしっかりとした意思の強さを、葵は感じ取った。

彼女の蒼い瞳は緋影の黒い瞳をじっと見つめている。

それを緋影は肯定と受け取った。

「……一つ、昔話をしてやるよ、先輩」

「昔話?」

「そうさ。人を盲信したが故に、取り返しのつかない失敗を犯した女の話さ」

一呼吸おき、

「……昔、昔、あるところに、お金持ちで、大変心のきれいな女と、その女性が愛した男がいました」

心なしか、声のトーンが落ちている。

「……女は男をとても愛し、男もそれによく応えていました」

表情は俯いているために葵からはよく見えない。

「……女は男の子どもを産み、二人でその子どもをかわいがりながら、三人で平凡ですが、幸せに暮らしていました」

声が段々と小さくなっていく。緋影の体が震えているように見えるのは気のせいだろうか。

「しかし、女の幸せは長くは続きませんでした」

窓から見える景色は緋影の心を表しているかのように、闇で彩られていた。