きらぶ33
赤い夕日が空を照らす中、少年は何が起こったのかよくわからなかった。
目の前に『お母さん』と呼ばれていた人物がいくつもの肉塊に切り裂かれ、夥しい出血を地面に流していたからだ。
落ち葉が、朱に染まっている。
こちらに伸びている長い影が何故か笑っているように見えた。
影はこちらに迫って来る。
少年は何も考えずに腰を抜かしたまま後退りする。
目の前に『お母さん』を殺した人物が鮮血に染まったナイフを持っていたから。
影は、自分が『お父さん』と呼んでいた人間だった。
少年は『お父さん』が大好きだった。『お母さん』と同じ位好きだった。
色々な事を自分に教えてくれて、自分が今足元に落としている眼鏡も彼が作ってくれたものだ。
厳しい時もあったが、少年は自分が彼に愛されている、と思っていた。
……しかし、彼は今、血みどろのナイフを持って自分に歩み寄って来る……
……少年を殺す為に……
…………
少年はわからなかった。
どうして、『お父さん』が『お母さん』を殺したのかが。
どうして、『お父さん』が自分を殺そうとしているのかが。
少年は恐怖で体が硬直し、動けずにその場に固まっている。
腰を抜かしたまま後退しようとする手が無様に宙を掻く。
恐怖に染まった瞳で、影を見つめている。
影が……『お父さん』が歩み寄って来る……
「ん?あれは……何をやっている貴様っ!」
怒声をあげたのは近所を巡回していた警官。
影は少年に背を向けて走り始める。
……少年は、何も出来なかった……
……何を、どうすればいいのかも、わからなかった……
赤い夕日の中置き去りにされた眼鏡が、悲しい事実を、少年に告げていた。