ぐぶ26
葵についての記憶がないのは気懸かりだが、悪人、少なくとも自分に害を及ぼす人間ではなさそうだ。そう考えた緋影はどう言う訳か、そんな事を口走っていた。
「も、物で機嫌を直そうとしてもそうはいきませんっ!」
彼女は依然と顔を真っ赤にしながら叫ぶ。その様がますますおかしくなってくる。
「そうすか。それは残念ですね」
言いながらわざとらしく腰を浮かせて、
「それじゃ俺はこれで」
和室をあとにしようとする。だが葵は凄まじい剣幕で詰め寄り、
「奢って貰えるのなら、奢って貰いますっ!」
頬を赤らめたまま半ばヤケクソ気味に叫んだ。
「大変正直でよろしい。それでこそ先輩です」
「……誉めているんですか、貶しているんですか?」
「両方」
きっぱりとそう言った。葵は溜息をつきながら、
「貴方も大変正直ですね、深山君」
「それはどうもありがとうございます」
皮肉を笑顔で返され、くちごもってしまった。